2007-02-09 恐ろしい山 詩 萩原朔太郎 恐ろしい山の相貌《すがた》をみた まつ暗な夜空にけむりを吹きあげてゐる おほきな蜘蛛のやうな眼《め》である。 赤くちろちろと舌をだして うみざりがにのやうに平つくばつてる。 手足をひろくのばして麓いちめんに這ひ廻つた さびしくおそろしい闇夜である がうがうといふ風が草を吹いてる 遠くの空で吹いてる。 自然はひつそりと息をひそめ しだいにふしぎな 大きな山のかたちが襲つてくる。 すぐ近いところにそびえ 怪異な相貌《すがた》が食はうとする。 目次に戻る