2005-05-17から1日間の記事一覧

基督

からだが悪いままに春になってしまった だが基督についての疑はまったく消え 何か寄りつくと すぐ手のうちの火をなげつけるような するどい気持ちがある 目次に戻る ルビは《》で示した。 底本:「定本 八木重吉」彌生書房(平成5年)

夜と昼

夜にありて日の在るを信ずる者は福《さいわい》である 夜 月の光によりて日の光を悟る者は福である やがて夜は明けはなたるる事を信ずる者は福である 夜にありて昼のごとく 正しく行う者は福である 目次に戻る

万象

人は人であり 草は草であり 松は松であり 椎は椎であり おのおの栄えあるすがたをみせる 進歩というような言葉にだまされない 懸命に 無意識になるほど懸命に 各各自らを生きている 木と草と人と栄えを異にする 木と草はうごかず 人間はうごく しかし うごか…

太陽

あなたは総べてのものへいりこむ 炭にはいっていて赤くあつくなる 草にはいっていて白い花になる 恋人にはいっていて瞳のひかりとなる あなたが神の重い使であることは疑えない あなたは人間の血のようなものである 地の中の水に似ている 不思議といえば不思…

早春

梅がすこし咲いた なんだか 天までとどく様な赤い柱にでもだきついていたい 目次に戻る

夜おそく起きていると 雨戸のところへたれかきて 赤い花をあげましょう 赤い花をあげましょうって歌っているとおもう 目次に戻る

病後

梅が咲いたそうですね 朝から雨がふっていますが 今日は熱もとれたようで 身体の気持ちがいかにもよい こうしてたきたての御飯に あつい味噌汁をよそって喰べると ほんに久しぶりに味がわかってうれしい 目次に戻る

野火

野火がもえた跡へくると 何か持って行ってしまわれたような気がする 目次に戻る

晩飯

からだも悪いし どうやっても正しい人間になれない 御飯をたべながら このことをおもってうつむいてしまった 目次に戻る

病気がいい方向へ向ったし それに今日は暖いそれはいい日だった 家へ帰ってきても 何んだかうれしくてならず ありがたいありがたいって 妻に話しながら涙がぼろぼろこぼれた 目次に戻る

shinnkou2**[詩][八木重吉] 信仰

からだが少しでもいいと 基督を忘れてしまう 今だたった今だ からだが悪いときに信じ切れぬなら いつになって信じきれるものか 目次に戻る

キリスト

病気して いろいろ自分の体が不安でたまらなくなると どうしても恐ろしくて寝つかれない しかししまいに キリストが枕元にたって じっと私をみていて下さるとおもうたので やっと落ち付いて眠りについた 目次に戻る

太陽

お前は永久なものをおしえる お前自身亡ぶる日があるだろうが その光とその力に人間はうたれる 知らぬ間におまえによって育っている 太陽によって私は神のひとつの能《ちから》をさとる 目次に戻る

朝飯

一日中ひびだらけの手で働きつめる うつくしい顔をして眠っている妻を起す気になれず まだ快《よ》くなりきらないが 私がそっと起きて朝飯をたいた 目次に戻る

信仰

基督を信じて 救われるのだとおもい ほかのことは 何もかも忘れてしまおう 目次に戻る

こすって痕《あと》をつけたように うすく雲が夕日の空に二つならんでいる だまって人のいないところで 張りつめきった気持ちを自分でみているような雲だ 目次に戻る

ねがい

きれいな気持ちでいよう 花のような気持ちでいよう 報《むく》いをもとめまい いちばんうつくしくなっていよう 目次に戻る

信仰詩篇

一九二六年(昭和元年)二月二七日編 目次 ねがい 冬 信仰 朝飯 太陽 キリスト 信仰 涙 晩飯 野火 病後 冬 早春 太陽 万象 夜と昼 基督 病気をすると何も欲しくない。この気持にひとつのものも混じえず基督を信仰して暮らそう。