2005-05-23から1日間の記事一覧

かなしみのせかいをば 一歩もいでぬわたしであるゆえ わたしのうたはただしいかもしれない かなしみをほこるのではない よろこびがほんとうにくるならば よろこびを空気のようにすうていきよう きょうはかなしみの日であるゆえ そうであるゆえかなしみの詩を…

すべての くるしみのこんげんは むじょうけんに むせいげんに ひとをゆるすという そのいちねんがきえうせたことだ 上に戻る

はん省《せい》ということをわすれて 大人のなかまからははなれてしまった いちねんということをうしなって こどものむれからはなれてしまった 上に戻る

ふたつになったこどもが ころころとわらっている だいぶさむい日だ かなりわたしのこころはうつくしい 上に戻る

ほんにひさしぶりだ あさげ庭におりてほうきをにぎり このふゆのにわをはいてやろうとする すこしきびしいうつくしいこころだ 上に戻る

わたしでもなく わたしをうごかすものでもなく ふしぎなる両生のせかいの いちばんやわらかな いちばんはじめの こころおどるいずみからものを言いたい 上に戻る

あたらしくあゆもう きのうのうたはわすれよう しかしながら きのうのうたとおなじように きょうもうたうことをおそれはすまい 上に戻る

ほんとうに しぜんに詩のうまれる日は じぶんみずからがとおといものになったとおもう いのちがあることがたしかにかんじられる みずからがかみのこころの窓となり わたしのうたは わたしのもつかみの観念とおなじたかさからながれいずる 上に戻る

逝く春をおしむこころ まさかりのなつにもありき きょうこのごろ ふゆにいる ひかりつれなき日にもわく けしつぶほどのあしき若さにてもあれ 若きことだんぜんとしてすべてにまさりてみゆる 上に戻る

やわらかく 土におちたこのななめのゆう陽は しずかに あかるく わたしの すこしきびしいまでの このかなしさをみんなすいとってしまう 上に戻る

きりすと われにありとおもうはやすいが われみずから きりすとにありと ほのかにてもかんずるまでのとおかりしみちよ きりすとが わたしをだいてくれる わたしのあしもとに わたしが ある 上に戻る

としのくれ つめたい街にならぶ 二階のとびらのあかない家《いえ》いえ あかないとびらはあかぐろく みずけをちっともふくんでいない 上に戻る

金がないのだから ものをかおうというのではないが 歳暮《くれ》のまちのにぎやかでないところをさまよえば ふみ切りばたに だいこんがたんとつまれている すこしもこころはゆるみはせぬが このだいこんのたくさんをみれば しょうじょうとふるさとのこころが…

宿直べやにねようとすれば 救世軍のらしいえんぜつがかすかにきこえてくる あのひとたちだって いっしんいちねんのそこにうたがいもあろう みえも虚栄もあるにはあろうが とにかくあのいっしんがあるのだなあ さてこの宿直べやの いやにむいみに四角なこと …

むなしいことばをいうな もしもそうしていたがために おまえの肺がよわるというなら さざん花のしろい花にむかってうたっておりなさい おまえのにくたいとおまえのことばを すべてうつくしいひとつのながれとなしなさい もしもひくいすがたのじぶんになって…

あさあけのふしあなからもれる ほそいひかりのながれにただよう かるやかなみじんにむかってしずかなこころならば このこころこそうれしいこころである 上に戻る

貧《まずしい》というもじと 乏《とぼしい》というもじとをくうにえがいて なるほどこれはわたしのものだとうなずいてみる まずしいがゆえに詩集をあみえず あかんぼのうまれるのも すくないほうがありがたいとねんずる このまずしさというものに徹していっ…

かげのごとくにすぎてゆく わがせいかつなり されど おもえば かげのごときことはかなしむねうちにあらず このささやかなるいのちのかげに いざつつましくわれをもやしてゆこう 上に戻る

いつわりのない こころをもとめ あいてのないこころをいだき きょうはすぎた あしたもゆこう 上に戻る

よるのともしびのもとに ちんもくのときをすごせば そとのやみにうまれる ときおりのとおい列車のひびき 水をくむぽんぷのひびき 小路《こうじ》をゆくおんなの下駄おと すべてそとにうまれしそしてしずかにきえてゆく そのものおとは他界のもののごとくなつ…

路をなつかしみうる日は みずからがこころおどる日である なつかしみうるほどの路をみいでし日は うばわれがたきうれしさをおぼえる 上に戻る

冬のはじめ 屋上庭園のうえからみる 神戸の街の 妙によそよそしい そのくせひとすじのたちがたくあくがれのにじんだ顔 山のほうだけは 秋ばれのようにすみきってあかるい たかいところからみるゆえんだろうか まやまやとたちのぼるむすうのけむりのいたまし…

ゆうやみの しずかなるあかさのなかにみれば このうすくれないの菊もうれしい まっしろな大りんのこれもいい きびしくさえたひごろのむねにさえ ひみつににたるなまめかしさがしのびこむ 上に戻る

おもえば 鳥はともである せまいせまい世界だもの 上に戻る

ギリシャ語の聖書をよめば とおのうちのたったひとつのいみがわかるだけでも ひとびろとすみきって おさなごのようにたんじゅんなまことが すぐさまこころへふれてくるのをかんずる くるしいわざではあるが かみよ このべんきょうをつづけさせたまえ 上に戻る

みずからをすてて まず人につくすという そのひとつをのぞいたなら 切切《きれぎれ》の歌をつくってゆく それよりほかになすべきわざをしらない 上に戻る

このよに てんごくのきたる そのひまでわがかなしみのうたはきえず てんごくのまぼろしをかんずる その日あるかぎり わがよろこびの頌歌《うた》はきえず 上に戻る

みたま

みたま 鳩のごとく くだれり という 上に戻る

貧しきものの歌

一九二四年(大正13年)一二月九日編