2006-02-01から1ヶ月間の記事一覧
こんな老木になつても 春だけはわすれないんだ 御覧よ まあ、紅梅だよ 目次に戻る
ほそぼそと 松の梢にかかるもの 煮炊《にたき》のけむりよ あさゆふの かすみである 目次に戻る
どこだらう 蟇《ひき》ででもあるかな そら、ぐうぐう ぐうぐう ぐうぐう ほんとにどこだらう いくら春さきだつて こんなまつくらな晩ではないか 遠く近く なあ、なあ、土の声だのに 目次に戻る
自分は森に この一枚の木の葉を ひろひにきたのではなかつた おう、椎の葉である 目次に戻る
蠅《はえ》もたくさん いつものやうにゐるにはゐたが かうしてやんでねてゐると 一ぴき 一ぴき 馴染のふかい友達である 目次に戻る
わたしが病んで ねてゐると 蜻蛉《とんぼ》がきてはのぞいてみた 朝に夕に ときどきは昼日中も きてはのぞいてみていつた 目次に戻る
わたしが病んで ねてゐると 木の葉がひらり 一まい舞ひこんできた しばらくみなかつた 森の 椎の葉だつた 目次に戻る
じいつと鉦《かね》を聴きながら あめうり爺さんの 背中にとまつて ああ、一塊の蠅《はえ》は どこまでついてゆくんだらう 目次に戻る
あめうり爺さん あんたはわたしが 七つ八つのそのころも やつぱり そうしたとしよりで 鉦《かね》を叩いて 飴を売つてた 目次に戻る
朝はやくから ちんから ちんから あめうり爺さん まさか飴を売るのに 生まれてきたのでもあるまいが なぜか、さうばかり おもはれてならない 目次に戻る
あめうり爺さん ちんから ちんから 草鞋脚絆で なんといふせはしさうな 目次に戻る
みんな あつまれ あつまれ そしてぐるりと 輪を描《か》け いま 真二つになる西瓜《すいか》だ 目次に戻る
みんな あつまれ あつまれ 西瓜《すいか》をまんなかにして そのまはりに さあ、合掌しろ 目次に戻る
どうも不思議で たまらない 叩かれると 西瓜《すいか》め ぽこぽこといふ 目次に戻る
かうして一しよに 裸体《まるはだか》でごろごろ ねころがつたりしてゐると おまへもまた 家族のひとりだ 西瓜《すいか》よ なんとか言つたらよかんべ 目次に戻る
座敷のまんなかに 西瓜が一つ 畑のつもりで ころがつてる びんぼうだと言ふか 目次に戻る
農家のまひるは ひつそりと 西瓜《すいか》のるすばんだ 大《でつ》かい奴がごろんと一つ 座敷のまんなかにころがつてゐる おい、泥棒がへえるぞ わたしが西瓜だつたら どうして噴出さずにゐられたらう 目次に戻る
くれがたの庭掃除 それがすむのをまつてゐたのか すぐうしろに 月は音もなく のつそりとでてゐた 目次に戻る
漁師三人 三体仏 海にむかつてたつてゐる なにか はなしてゐるやうだが あんまりほのかな月なので ききとれない 目次に戻る
月の夜をしよんぼりと 影のはうが どうみても ほんものである 目次に戻る
こしまき一つで だきかかへられて ごろんと 大《でつ》かい西瓜《すいか》はうれしかろ その手もとが ことさらに 月で明るいよう 目次に戻る
月の光にまけたのか 蝉が一つ まあ、まあ この松の梢は 花盛りのやうだ 目次に戻る
竹林の ふかい夜霧だな 遠い野茨のにほひもする どこかに あるからだらう 月がよ 目次に戻る
靄深いから とほいやうな ちかいやうな 月明りだ なんの木の花だらう 目次に戻る
一ところ明るいのは ぼたんであらう そうだ ぼたんだ 星の月夜の 夜ふけだつたな 目次に戻る
脚《あし》もとも あたまのうへも 遠い 遠い 月の夜ふけな 目次に戻る
ほつかりと 月がでた 丘の上をのつそりのつそり だれだらう、あるいてゐるぞ 目次に戻る
ああ、もつたいなし もつたいなし 妻よ びんぼうだからこそ こんないい月もみられる 目次に戻る
ああ、もつたいなし もつたいなし かうして 寝ながらにして 月をみるとは 目次に戻る
ああ、もつたいなし もつたいなし 蟋蟀《きりぎりす》よ おまへまで ねむらないで この夜ふけを わたしのために鳴いてゐてくれるのか 目次に戻る