2006-02-01から1ヶ月間の記事一覧

ある時

宗教などといふものは もとよりないのだ ひよろりと 天をさした一本の紫苑よ 目次に戻る

ある時

とうもろこしの花が つまらなさうにさいてゐる あはははは だれだ わらつたりするのは まつぴるまの 砂つぽ畑だ 目次に戻る

ある時

くもの巣 松の落葉が いい気持さうに ひつかかつてゐる あ、びつくりした 昼、日中 目次に戻る

ある時

松の葉がこぼれてゐる どこやらに 一すぢの 風の川がある 目次に戻る

ある時

また蜩《ひぐらし》のなく頃となつた かな かな かな かな どこかに いい国があるんだ 目次に戻る

蚊柱

蚊柱よ 蚊柱よ おまへたちもそこで その夕闇のなかで 読経でもしてゐるのか みんないつしよに まあ、なんといふ荘厳な 目次に戻る

読経

くさつぱらで 野良犬に 自分は法華経をよんできかせた 蜻蛉《とんぼ》もじつときいてゐた だが犬めは つまらないのか、感じたのか 尻尾もふつてはみせないで そしてふらりと どこへともなくいつてしまつた 目次に戻る

まつぼつくり

山のおみやげ まつぼつくり ぼつくり ころころ ころげだせ お昼餉《ひる》だよう 鉄瓶の下さたきつけろ 目次に戻る

ほうほう鳥

やつぱりほんとうの ほうほう鳥であつたよ ほう ほう ほう ほう こどもらのくちまねでもなかつた 山のおくの 山の声であつたよ ★ ほう ほう ほう ほう 山奥のほそみちで 自分もないてる ほうほう鳥もないてる ★ 自分もそこにもゐて ふと鳴いてるとおもはれた…

しつかりと にぎつてゐた手を ひらいてみた ひらいてみたが なんにも なかつた しつかりと にぎらせたのも さびしさである それをまた ひらかせたのも さびしさである 目次に戻る

野糞先生

かうもりが一本 地べたにつき刺されて たつてゐる だあれもゐない どこかで 雲雀《ひばり》が鳴いてゐる ほんとにだれもゐないのか 首を回してみると ゐた、ゐた いいところをみつけたもんだな すぐ土手下の あの新緑の こんもりした灌木《かんぼく》のかげ…

ある時

ほのぼのと どこまで明るい海だらう それでも溺れようとはせず ちりり ちりりり ちどりはちどりで まつぴるまを 鬼ごつこなんかしてゐる 目次に戻る

ある時

木蓮の花が ぽたりとおちた まあ なんといふ 明るい大きな音だつたらう さようなら さようなら 目次に戻る

ある時

ぱらぱらと 雨が三粒 ……けふは何日だつけなあ 目次に戻る

藤の花

ながながと藤の花が 深い空からぶらさがつてゐる あんまり腹がへつてゐるので わらふこともできないで それを下から見あげてゐる ゆらりとしてみろ ほんとに 食べたいやうな花だが 食べられるものでないから 寂しいんだ 目次に戻る

なんといふ麗かな朝だらうよ 娘達の一塊《かたまり》がみちばたで たちばなししてゐる うれしさうにわらつてゐる そこだけが 馬鹿に明るい だれもかれもそこをとほるのが まぶしさうにみえる 目次に戻る

ある時

松ばやしのうへは とつても深い青空で 一ところ 大きな牡丹の花のやうなところがある こどもらの声がきこえる あのなかに うちのこどももゐるんだな 目次に戻る

ある時

朝霧の中 ゆきあつたのは しつとりぬれた野菜車さ 大きな背なかの めざめたばかりの あかんぼさ けふは、なんだか いいことがありさうな気がする 目次に戻る

ある時

自分はきいた 朝霧の中で 森のからすの たがひのすがたがみつからないで よびかはしてゐたのを 目次に戻る

ある時

あらしだ あらしだ 花よ、みんな蝶々にでもなつて 舞ひたつてしまはないか 目次に戻る

お爺さん

満開の桃の小枝を とろりとした目で眺めながら うれしさうにもつてとほつた あのお爺さん にこにこするたんびに 花のはうでもうれしいのか ひらひらとその花弁《はなびら》をちらした あのお爺さん どこかでみたやうな 目次に戻る

おなじく

馬鹿にならねば ほんとに春にはあへないさうだ 笛よ、太鼓よ さくらをよそに だれだらう 月なんか見てゐる 目次に戻る

さくらだといふ 春だといふ 一寸、お待ち どこかに 泣いてる人もあらうに 目次に戻る

ある時

うす濁つたけむりではあるが 一すぢほそぼそとあがつてゐる たかくたかく とほくの とほくの 山かげから 青天《あをぞら》をめがけて けむりにも心があるのか けふは、まあ なんといふ静穏《おだやか》な日だらう 目次に戻る

ある時

麦の畝々までが もくもく もくもく 這ひだしさうにみえる さあ どうしよう 目次に戻る

ある時

まあ、まあ どこまで深い靄だらう そこにもここにも 木が人のやうに立つてゐる あたまのてつぺんでは 艪《ろ》の音がしてゐる ぎいい、ぎいい そうかとおもつてきいてゐると 雲雀《ひばり》が一つさへづつてゐる これでいいのか 春だとはいへ ああ、すこし幸…

山道にて

善い季節になつたので 茨《ばら》などまでがもう みち一ぱいに匍ひだしてゐた けふ、山みちで 自分はそのばらに からみつかれて 脛《すね》をしたたかひつかかれた 目次に戻る

おなじく

大竹藪の真昼は ひつそりとしてゐる この梅の 小枝を一つ もらつてゆきますよ 目次に戻る

おなじく

おい、そつと そつと しづかに 梅の匂ひだ 目次に戻る

ほのかな 深い宵闇である どこかに どこかに 梅の木がある どうだい 星がこぼれるやうだ 白梅だらうの どこに さいてゐるんだらう 目次に戻る