山の重さが私を攻め囲んだ
私は大地のそそり立つ力をこころに握りしめて
山に向かつた
山はみじろぎもしない
山は四方から森厳な静寂をこんこんと噴き出した

たまらない恐怖に
私の魂は満ちた
ととつ、とつ、ととつ、とつ、と
底の方から脈うち始めた私の全意識は
忽《たちま》ちまつぱだかの山脈に押し返した
「無窮」の力をたたへろ
「無窮」の生命をたたへろ
私は山だ
私は空だ
又あの狂つた種牛だ
又あの流れる水だ
私の心は山脈のあらゆる隅隅をひたして
其処に満ちた
みちはじけた

山はからだをのして波うち
際限のない虚空の中へはるかに
又ほがらかに
ひびき渡つた
秋の日光は一ぱいにかがやき
私は耳に天空のカの勝鬨《かちどき》をきいた
山にあふれた血と肉のよろこび!
底にほほゑむ自然の自愛!
私はすべてを抱いた
涙がながれた