高村光太郎

高村光太郎の購入可能な詩集等

文庫 智恵子抄 (角川文庫)作者: 高村光太郎,中村稔出版社/メーカー: 角川書店発売日: 1999/01/01メディア: 文庫 クリック: 5回この商品を含むブログ (4件) を見る智恵子抄 (新潮文庫)作者: 高村光太郎出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2003/11メディア: 文庫…

 紹介 年譜 書籍

値ひがたき智恵子 あどけない話 さびしきみち 樹下の二人 千鳥と遊ぶ智恵子 道程 東北の秋 十和田湖畔の裸像に与ふ 人に 冬が来た 冬の詩 山 レモン哀歌

千鳥と遊ぶ智恵子

人つ子ひとり居ない九十九里の砂浜の 砂にすわつて智恵子は遊ぶ。 無数の友達が智恵子の名を呼ぶ。 ちい、ちい、ちい、ちい、ちい―― 砂に小さな趾《あし》あとをつけて 千鳥が智恵子に寄つて来る。 口の中でいつでも何か言つてる智恵子が 両手をあげてよびか…

値ひがたき智恵子

智恵子は見えないものを見、 聞こえないものを聞く。 智恵子は行けないところへ行き、 出来ないことを為《す》る。 智恵子は現身《うつしみ》のわたしを見ず、 わたしのうしろのわたしに焦がれる。 智恵子はくるしみの重さを今はすてて、 限りない荒漠の美意…

十和田湖畔の裸像に与ふ

銅とスズとの合金が立つてゐる。 んな造型が行はれようと 無機質の図形にはちがひがない。 はらわたや粘液や脂や汗や生きものの きたならしさはここにはない。 すさまじい十和田湖の円錐《えんすい》空間にはまりこんで 天然四元《てんねんしげん》の平手打…

東北の秋

芭蕉もここまでは来なかつた 南部、津軽のうす暗い北限地帯の 大草原と鉱山《かなやま》つづきが 今では陸羽何々号の稲穂にかはり、 紅玉《こうぎよく》、国光《こくくわう》のリンゴ畑にひらかれて、 明るい幾万町歩が見わたすかぎり、 わけても今年は豊年…

山麓の二人

二つに裂けて傾く磐梯山《ばんだいさん》の裏山は 険しく八月の頭上の空に目をみはり 裾野とほく靡《なび》いて波うち 芒《すすき》ぼうぼうと人をうづめる 半ば狂へる妻は草を藉《し》いて坐し わたくしの手に重くもたれて 泣きやまぬ童女のやうに慟哭《ど…

冬の詩

一 冬だ、冬だ、何処もかも冬だ 見わたすかぎり冬だ 再び僕に会ひに来た硬骨な冬 冬よ、冬よ 躍れ、叫べ、僕の手を握れ 大きな公孫樹の木を丸坊主にした冬 きらきらと星の頭を削り出した冬 秩父、箱根、それよりもでかい富士の山を張り飛ばして来た冬 そして…

高村光太郎について

高村さんの詩は、学校の教科書で何篇か取り上げられいるはずであるがるが、学生時代にはあまり心打たれず、教科書外の詩を読むことはなかった。「千恵子抄」の中から「千鳥と遊ぶ千恵子」など2・3篇だったと思う。 改めて読み返すきっかけになったのは、「…

高村光太郎の年譜

明治16年 現東京都台東区に、父幸吉、母わかの長男として生まれる。本名光太郎(みつたろう)。父は光雲と号し、伝統の彫刻技術を伝えた木彫家である。兄弟9人 明治30年 東京美術学校予科に入学。文学を好み、芝居に親しむ。 明治31年 本科彫刻科に進…

山の重さが私を攻め囲んだ 私は大地のそそり立つ力をこころに握りしめて 山に向かつた 山はみじろぎもしない 山は四方から森厳な静寂をこんこんと噴き出した たまらない恐怖に 私の魂は満ちた ととつ、とつ、ととつ、とつ、と 底の方から脈うち始めた私の全…

レモン哀歌

そんなにもあなたはレモンを待つてゐた かなしく白くあかるい死の床《とこ》で わたしの手からとつた一つのレモンを あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ トパアズいろの香気が立つ その数滴の天のものなるレモンの汁は ぱつとあなたの意識を正常にした あな…

冬が来た

きつぱりと冬が来た 八つ手の白い花も消え 公孫樹《いてふ》の木も箒《はうき》になつた、 きりきりともみ込むやうな冬が来た 人にいやがられる冬 草木に背かれ、虫類に逃げられる冬が来た 冬よ 僕に来い、僕に来い 僕は冬の力、冬は僕の餌食《ゑじき》だ し…

人に

いやなんです あなたのいつてしまふのが――― 花よりさきに実のなるやうな 種子《たね》よりさきに芽の出るやうな 夏から春のすぐ来るやうな そんな理窟に合はない不自然を どうかしないでゐて下さい 型のやうな旦那さまと まるい字をかくそのあなたと かう考…

道程

僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る ああ、自然よ 父よ 僕を一人立ちにさせた広大な父よ 僕から目を離さないで守る事をせよ 常に父の気魄を僕に充たせよ この遠い道程のため この遠い道程のため

樹下《じゅか》の二人

―――みちのくの安達が原の二本松 松の根かたに人立てる見ゆ――― あれが阿多多羅山《あたたらやま》 あの光るのが阿武隈川《あぶくまがは》 かうやつて言葉すくなに坐つてゐると、 うつとりねむるやうな頭の中に、 ただ遠い世の松風ばかりが薄みどりに吹き渡り…

さびしきみち

かぎりなきさびしけれども われは すぎこしみちをすてて まことにこよなきちからのみちをすてて いまだしらざるつちをふみ かなしくもすすむなり ――そはわがこころのおきてにして またわがこころのよろこびのいづみなれば わがめにみゆるものみなくしくして …

あどけない話

智恵子は東京に空が無いといふ。 ほんとの空が見たいといふ。 私は驚いて空を見る。 桜若葉の間《あひだ》に在るのは、 切つても切れない むかしなじみのきれいな空だ。 どんよりけむる地平のぼかしは うすもも色の朝のしめりだ。 智恵子は遠くを見ながら言…