2004-07-22から1日間の記事一覧

千鳥と遊ぶ智恵子

人つ子ひとり居ない九十九里の砂浜の 砂にすわつて智恵子は遊ぶ。 無数の友達が智恵子の名を呼ぶ。 ちい、ちい、ちい、ちい、ちい―― 砂に小さな趾《あし》あとをつけて 千鳥が智恵子に寄つて来る。 口の中でいつでも何か言つてる智恵子が 両手をあげてよびか…

値ひがたき智恵子

智恵子は見えないものを見、 聞こえないものを聞く。 智恵子は行けないところへ行き、 出来ないことを為《す》る。 智恵子は現身《うつしみ》のわたしを見ず、 わたしのうしろのわたしに焦がれる。 智恵子はくるしみの重さを今はすてて、 限りない荒漠の美意…

十和田湖畔の裸像に与ふ

銅とスズとの合金が立つてゐる。 んな造型が行はれようと 無機質の図形にはちがひがない。 はらわたや粘液や脂や汗や生きものの きたならしさはここにはない。 すさまじい十和田湖の円錐《えんすい》空間にはまりこんで 天然四元《てんねんしげん》の平手打…

東北の秋

芭蕉もここまでは来なかつた 南部、津軽のうす暗い北限地帯の 大草原と鉱山《かなやま》つづきが 今では陸羽何々号の稲穂にかはり、 紅玉《こうぎよく》、国光《こくくわう》のリンゴ畑にひらかれて、 明るい幾万町歩が見わたすかぎり、 わけても今年は豊年…