2004-07-22 値ひがたき智恵子 詩 高村光太郎 智恵子は見えないものを見、 聞こえないものを聞く。 智恵子は行けないところへ行き、 出来ないことを為《す》る。 智恵子は現身《うつしみ》のわたしを見ず、 わたしのうしろのわたしに焦がれる。 智恵子はくるしみの重さを今はすてて、 限りない荒漠の美意識圏にさまよひ出た。 わたしをよぶ声をしきりにきくが、 智恵子はもう人間界の切符を持たない。