東北の秋

芭蕉もここまでは来なかつた
南部、津軽のうす暗い北限地帯の
大草原と鉱山《かなやま》つづきが
今では陸羽何々号の稲穂にかはり、
紅玉《こうぎよく》、国光《こくくわう》のリンゴ畑にひらかれて、
明るい幾万町歩が見わたすかぎり、
わけても今年は豊年満作。
三陸沖から日本海まで
ずつとつづいた秋空が
いかにも緯度の高いやうに
少々硬質の透明な純コバルト性に晴れる。
東北の秋は晴れるとなると
ほんとに晴れてまぎれがない。
金の牛《べこ》こが坑《あな》の中から
地鳴りをさせて鳴くやうな
秋のひびきが天地にみちる。