2004-09-20 春夜 津村信夫 星のちかい山の小都市で、娘《むすめ》は病《やま》ひに臥《ふ》せつてゐた。 天《そら》は、いくたびか雪を降らせた。 それから、幾夜《いくよ》さか、晴れた天《そら》がさしのぞかれたが、屋根《やね》の積雪《せきせつ》はかたくて、もう月光《ひかり》をも透《とほ》さなかつた。 老母《らうぼ》は時折《ときをり》、窓をあけて、屋根の上の雪をかきあつめてゐた。 羽搏《はばた》くものがきこえた、娘は雪のつまつた、枕《まくら》をして、胸の上で、静かに、また、手を組みあはせた。