ほほえむ君に

弘前城

 岩木山は、なめらかに、雄大な裾野を広げている。麓一面に広がるりんご畑、抱えきれぬ微笑を掲げ、水面《みなも》と空に語らいかける。

ほほえむ りんご
きになる りんご
むきあう りんご
たびだつ りんご

ほほえむ君を 手に取れば
柔肌《やわはだ》さぐる 僕の手に
はずかし揺れる その頬《ほお》は
薄紅《うすくれない》の 恋の色

きになる君は 秋の空
景色を染めて 色変えて
人に涙す その声に
無邪気《むじゃき》に笑う その瞳《ひとみ》

むきあう君は 大地の子
裾野をひらく その山の
母なる里の 胸臆《きょうおく》の
ロマンと命 薫《かおり》立つ

たびだつ君は 僕の夢
無欲な僕の 落とし物
まだ見ぬ異国の 姫君《ひめぎみ》よ
はばたく翼 秋の風

    (2004.10.1)
 五能線に乗り、弘前駅から鯵ヶ沢駅へ。台風が過ぎ去り、青空が見えた次の日、左手に見える岩木山とその麓の林檎畑を眺めて