たそがれ殿の夢の跡

けやき

やまやまやま(山)に囲まれて
 ここは山形山の国
くもくもくも(雲)く覆われて
 空にも山を築きたり

やまやまやまを仰ぎ見て
 出羽のお山に手をたたく
かすかすみたつ(霞立つ)輝きは
 人の思いか神の光《ひ》か

やまやまやまの頂は
 氷雪残す静けさに
しずしずしずく(雫)潤した
 二人の出会いクロユリの花

やまやまやまは連なりて
 空のかなたもまた山か
なみなみなみぐも(波雲)わかれして
 まほろば探し歩み去る

やまやまやまに雁の群れ
 故郷の国に帰りしか
うろうろこぐも(鱗雲)たそがれて
 旅ゆく郷は今いずこ

やまやまやまに日は落ちて
 山の裾野は紅に
たんたんたんぼ(田圃)さみしげに
 かられた藁を重ねたり

やまやまやまに湧き出した
 祈りの形天《あま》の川《かわ》
いざいざよい(十六夜)の月の出に
 たそがれ殿の夢の跡

    (2004.9.29)
 山形県鶴岡で藤沢周平の「たそがれ清兵衛」の世界を思い描いて