大内宿:会津郡下郷町(3)

大内宿


湯野上温泉駅から6kmほどの所に、大内宿(おおうちじゅく)という宿場町がある。ここは、会津西街道または南山通りと呼ばれ、会津若松と日光今市を結ぶ重要な道であり、参勤交代などで宿に利用され、かつてにぎわった場所である。今ではこの道で日光まで行く人はいないだろうが、その町並みが国の重要伝統的建造物群保存地区に指定され、約40軒の茅葺き民家が当時の面影を残して並び、昔ながらの家屋を生かした宿や食事処が連なり、観光地として賑わいを見せていた。
私のここでの問題点は、足が無いことである。交通手段が電車とバスの身には、タクシーでしかいけないというのは困ったものだ。数人で旅をしているんであればよいが、一人で車を占拠するにはお金が心もとない。ここまで来る機会はなかなかないだろうと思案した末、結局人力で進むことにした。県外ナンバーの車や観光バスがひっきりなしに通る道の端を、紅葉を眺めながらヒタヒタと歩く。始めはそれもよかったが次第に雨も降り始めて、傘は持っているのだが進もうか戻ろうか考えるようになってきた。そんなときである、世の中はありがたい。地元の軽トラックのおじさんが止まってくれて「乗ってくか」と声をかけていただけた。おじさんお助手席にのり、おじさんの鍋を抱え「本当にありがとうございます、雨も降ってきて」と心からお礼を言うと、「あと4kmあるからな、登りは厳しいだろうと思って」と、実は2kmしか登っていないことがわかる。
しばらく車に乗り、おじさんに礼を述べ、大内宿の探索を始める。のっけから茅葺屋根の建物が見え、通りに入ると左も右も同じようなゆったりと屋根を広げた茅葺屋根である。すっかり観光地として、どの家もみやげ物や食事・餅や団子と商魂たくましい。よほど需要があると見える。余裕の無い私も一番奥の食事どころに入り、岩魚の天ぷらそばを食し、会津の歯ごたえのあるそばを堪能させていただいた。
店を出て奥の高台へと登ると、上から茅葺屋根が遠くまで広がり、これは赴きある風景。ぜひ後世に残していただきたい文化遺産であると感じた。ここでまた帰るのが問題なのであるが、とぼとぼと歩き始める。再び惨め加減を増して弱々しげにあるいていくと、旅途中の夫婦が止まってくれて、再び人のあたたかさと会津の人情を感じざるをえない。聞けば来るときも、あなたがとぼとぼ歩いているのを見かけて、宿まで行くのかしらと考えていたとのこと、感謝、感謝。旅の話などを交わし、夫婦は芦ノ牧温泉に向かうとのことなので、お礼を述べ湯野上温泉の駅前で別れた。思えば、これもヒッチハイクの一種で初めての体験である。人のあたたかさと、人情にふれた貴重な体験であった。私は再び電車に乗り、会津若松へと戻っていった。