悲しい事をいう

東根大欅

秋立つ頃から散ってくる
掃《は》いたそばから落ちてくる
風が吹く度増えてくる
雨に降られてちぢこまる

一度に落とす策《さく》なき物か
ひっそり枯らす薬はないか
そんな話を人から聞いた
悲しい事を言うではないか

都会の人は忙しく
一度に散らすものなのか
パッと咲いたらパッと散って
そんな木々だけ愛すと言うのか

春咲く桜鮮やかに
二分咲き、四分咲き、八部咲き
桜吹雪《ふぶ》いて葉桜へ
二週間と言うとこか

木々には木々の心があって
秋には秋の姿を見せる
人には別個の心があって
それぞれ異なる価値を置く

モミジやカエデは少しずつ
秋の始まる声を聞く
雨音《おと》、虫の音《ね》、水の音《おん》
草木のかすかな葉擦《はず》れ音を

赤や黄色や枯色に
葉先枝元変えていく
人目につかぬ足音で
さらりさらりと移りゆく

人は鮮やかなりし時しか目を向けない
自分が見つめるから咲くのではなく
世界が少しずつ動いているのだ
ひたりひたりと枯葉が落ちるのは
秋の音を一つずつ感じているからだ
その葉一枚一枚が秋の声なのだ

枯葉の心の一つ一つを手にとって
自然の足跡を聞いてください
枯葉はそれを、その少しの変化を教えてくれる
その心を知れば、あなたは
詩人と旅人の生き方の一つを
知ることが出来るだろう

    (2004.11.23)
 とある工場で、枯葉に困っていると、そしてどうしようかと悲しい話を聞いた。