幸《さいわい》を探しませう

幸《さいわい》を探しませう
どこまでも行きませう

粉雪通る街の奥
震える柱の釘のもと
白さのにじむ待合所《まちあいじょ》
書き留められた落書きに

山のあなたの空遠く
 「幸《さいわい》」住むと人のいう』
ひときわ輝く書付《かきつけ》が
細かい字体でありました

『私は幸《さいわい》探しています
 幸探しに行きます       』と
幸はどこにあるのでせう
この山道を越えてゆくのでせうか

南の方の海からは
常世《とこよ》の波が寄せて来て
浴びれば穢《けが》れ浄《きよ》められ
佳《よ》きもの来ると人はいう

南の島のその向こう
ニライ・カナイに行きませう
水平線の向こう側
裸で泳いで行きませう

空の青さのその先の
高く渦巻く雄大雲《ゆうだいうん》
羽ある人の空の国
科学の知識あるという

木霊《こだま》の深い森の奥
尖《とが》った山を登りませう
頂《いただき》に立ち素手《すで》かかげ
飛び出た木の根探しませう

明るい夜空の星の道
軌道に沿った天の川
白鳥座からサザングロス
幸《しあわせ》尋ねたジョバンニはいう

牧場後ろのゆるい丘
裸足《はだし》で歩いて行きませう
天気輪《てんきりん》の柱の下
銀河鉄道乗りませう

青空狭きビルの街
仕事もあって金あって
人々集《つど》い賑《にぎ》やかで
豊《ゆた》かさあると人はいう

親元離れ家を出て
ブナの森には別れを告げて
髪の毛切って化粧して
スモッグ吸いに行きませう

この山の向こうには
どこにでも幸《さいわい》があるような気がして
どの幸《さいわい》に行けばいいのか
私は迷ってしまいそうです

木に尋ねても 岩に尋ねても
鳥に尋ねても 雲に尋ねても
そんな話を聞いたというだけで
彼らはまたここに戻ってくるのです

そう考えて見ますと
この山の村が幸《さいわい》のような気がして
これが正しい道であると
一日ずつ歩いて行けばいいようです

それでも私はどこか遠くに
幸《さいわい》があるような気がして
たいして広くもない山に囲まれたこの村を
少しずつぐるぐると歩いていたりするのです

    (2004.12.26)
 岩手県北上市和賀仙人駅の一言帳にカール・ブッセの詩「山のあなた」が書き付けてあるのに心打たれて詩を詠む。
    (2005.2.12)
 2節目を下記から変更
  粉雪積もる街の奥
  マキも石油も石炭も
  暖房のない待合所《まちあいじょ》
  私はノートを手に取りました