雪を見に行く:大曲市

大曲路地


仕事の帰り道からすでに、私の旅は始まっていた。岩手町から盛岡へと走るIGR(いわて銀河鉄道)中では、始めは先輩と仕事の話をしていたのだが、なぜか途中からは不老不死温泉の話へと進んでいた。そこは露天風呂の前に、海が目の前まで迫り、大きな夕日が涙を流して沈んでいく、そして打ちつける波しぶきは、時には人にまでかかる有様であるというその感想により、私の旅への期待はさらに高まっていく。
タイピンをとり、ネクタイを抜いて、ワイシャツのボタンを緩める。盛岡からは秋田新幹線のホームへと並ぶ。ここからは、雫石、田沢湖、角館、大曲、秋田へと、秋田県にいくしかない場所である。つまり、秋田美人の領域だ。いつものことなのであるが、旅先では周りの女の人が、美しく見えて仕方がない、さらに、それが秋田とあっては見つめずにはいられない。椅子に腰掛けて単語帳を読んでいる、ちょっとふとった女学生も、スーツに身を固めたOLさんも、斜め向かいのおばあさんも、みんなが美しく見える。「美しいものになら ほほえむがよい」などと、そんな日記を書きながら新幹線へと乗り込む。日はすっかり大地へと沈み、窓からの闇は光は吸ってにじみ、郊外の明かりのみがかすかに大地の白さを示していた。(詩「旅の分かれ目」
大曲駅にて新幹線を降りる。この豪雪地帯における旅の期待としては、連なる雪の壁を歩いて頬を壁につけ、雪壁の冷たさを味わうという事がある。だが、実際それ程積もってはいない。やはり街中だからだろうか、道路脇で50cmといったところである。ひょうしぬけだ。夏の海水浴場と同じく、雪も例年通り降らないと、観光もまわらない。だだし、路面は雪と氷でつるつるで実に歩きにくい。一昨日、2輪のキャリアケースから4輪のキャリアケースに買い替え、快適性そのものは上がっているはずであるが、車輪には雪が付いて回らず、氷も凸凹なため進まず、すべるのは人間だけであり思うようにいかない。
駅から3分と、ネットで予約した宿を探すのであるが、どうも駅前の詳細な地図を持っていないためか、宿屋が見つからない。通常3分といえば、駅から見えるような場所なはずなのだが。また、駅裏ということもあって、道が細かくわかりにくい。30分程あるいた所、これは無理だなと思い近くの店の人に聞いてみるが、説明がしにくい場所らしく、実際いってみたがわからない。一度駅に戻って宿屋に電話すると、「○○の建物を右に入ってしばらく歩き、3番目の路地にコカコーラの自販機があるので、そこを右に曲がると宿の看板が見えるようになる」と、まるで友人の家にいくような細かい道である。幸いにもその案内で宿屋に着いたのだが、商売ならもう少し案内板を出すとかして、駅からわかるようにすべきなのであろう。努力不足の感じがいなめない。まあ宿賃が安いので、文句も言わずに部屋へと入る。
さて、夕食をまだ済ませていないので宿を出て、駅裏の繁華街へと向かう。予想できることではあるが、東北の夜は寂しい。地元の映画館に貼られいているポスターなども、何か月日を感じさせるものである。駅前で大曲の名物を探してはみたが、商店街を歩く限りではなにが名物なのかよくわからず、よさそうな店も見つからなかったので、いつもどおりスーパーで半額になったオニギリとオカズを購入する。高齢の方が定年後にする旅とは違って、若者?の旅は実際こんなものである。上司に言わせると、旅を味わうためには、史跡などの観光拠点と温泉、そして料理だそうであるが、私は常に2/3しか味わっていないようである。まあ給料が上司の1/3ぐらいなので仕方がない。
帰りは再び駅をまたいで行くが、構内の巨大な花火のポスターが目についた。そう、大曲は花火大会で全国的に有名であり、毎年8月第4土曜日、雄物川畔大曲橋下流で日本一の伝統と技術のたかさ規模を誇る花火大会が開催される。この花火大会は花火師の技術の大会であり、アイディアや演出に工夫を凝らし、いかにすばらしい花火を打ち上げるかに精魂が傾けられ、内閣総理大臣賞なども与えられるすごい大会である。実際すごい人手で、終わってから市内を出るのに2時間以上かかるそうである。車もお金も無いので、まだ見に行ったことはない。
次の日の朝、宿を出ると雪模様であり、音もなくシトシトと雪が降りしきっている。これが太宰治が7つと示した雪の一つ「わた雪」であろうか。駅へと歩くと、屋根やブロック壁にツララが、大地への牙のように下へと連なっている。屋根の雪が雫がとなって落ち、その雫がしたたり凍ったのがツララであり、透明で細長い。仙台でも細いものなら見ることがあるのだ20cm以上の氷柱を見たことはない。屋根の方を見ると40cmぐらいのものまで見受けられる。一つ壁から折って手にとってみると、やはり氷の柱であるのだから非常に冷たく、やけどしそうで持っていられない。床に落すとパキパキと折れる。以外に硬くないのである。