2005-03-22 蛙声 詩 中原中也 天は地を蓋《おお》ひ、 そして、地には偶々《たまたま》池がある。 その池で今夜一と夜さ蛙は鳴く…… ――あれは、何を鳴いてるのであらう? その声は、空より来り、 空へと去るのであらう? 天は地を蓋《おお》ひ、 そして蛙声《あせい》は水面に走る。 よし此の地方《くに》が湿潤に過ぎるとしても、 疲れたる我等が心のためには、 柱は猶《なほ》、余りに乾いたものと感《おも》はれ、 頭は重く、肩は凝るのだ。 さて、それなのに夜が来れば蛙は鳴き、 その声は水面に走つて暗雲に迫る。 目次に戻る