2005-03-22 独身者 詩 中原中也 石鹸箱《せつけんばこ》には秋風が吹き 郊外と、市街を限る路の上には 大原女《おはらめ》が一人歩いてゐた ――彼は独身者《どくしんもの》であつた 彼は極度の近眼であつた 彼はよそゆきを普段に着てゐた 判屋奉公したこともあつた 今しも彼が湯屋から出て来る 薄日の射してる午後の三時 石鹸箱には風が吹き 郊外と、市街を限る路の上には 大原女が一人歩いてゐた 目次に戻る