2005-03-22 冬の明け方 詩 中原中也 残んの雪が瓦に少なく固く 枯木の小枝が鹿のやうに睡《ねむ》い、 冬の朝の六時 私の頭も睡い。 烏が啼いて通る―― 庭の地面も鹿のやうに睡い。 ――林が逃げた農家が逃げた、 空は悲しい衰弱。 私の心は悲しい…… やがて薄日が射し 青空が開《あ》く。 上の上の空でジュピター神の砲《ひづつ》が鳴る。 ――四方《よも》の山が沈み、 農家の庭が欠伸《あくび》をし、 道は空へと挨拶する。 私の心は悲しい…… 目次に戻る