遠い空の果ての悲しみ

テロリストとは何ぞや この国の
革命家とは何か
我らは 悲しみを知らない

例えば、老けた彼なのか
大学受験の会場で、はじめて見かけた忘れ物
安保時代の忘れ物
白衣を羽織りメット付け
白いマスクにサングラス
古よりか伝えしは
朝早くからビラ配り、授業は寮で昼寝して
生協上の屋上に、拡声器を持ち声張り上げる
言葉届かず通りゆく、若者達の空の上
目指す所は知らねども
ひっくり返すと思わじや

それとも何か、あれなのか
みすぼらしげな格好で、中学生にも馬鹿にされ
緑地帯の前にいる
小さく円い輪になって、原付メットを手に握り
寸劇演じる彼なのか
いじめ蹴られる寮生と、いじめる役の寮生と
全学友諸君、我々は・・・廃寮反対・・・はあはあ
懐かしきかな木の香り、薄い壁にずれた窓
いやいや違う、それ違う
なぜなら私もそこにいた

遠く白やむ空の果て
戦争あると人が言う
テロが起きたと人が言う 噂や記事の来る所
手では届かぬ触覚の
人の知るべき悲しみが
有るかも知れぬ所《とこ》かしら

テロリストの悲しみは
頭の主義の悲しみか
小さきものの悲しみと
世界の違う悲しみで
焼けた草木と、やせた人
さまよう者の悲しみは
心の奥の悲しみで
私の中にもあるけれど
頭の中の悲しみは
止めれば病める悲しみか

人の知るべく悲しみは
歩いていける所《とこ》ぐらい
2本の足と手と体、使っていける所《とこ》ぐらい
移動したての体では
居座る地霊も取り付かず
他人にあかす悲しみはなし
人であるこの悲しみを
世界の人へ伝えよう
しいたげられた人々の
狭くて遠い悲しみを
言葉や主義で覆わずに
人の姿で伝えよう

覚めることのない惰眠の中で
熱いココアの一口を啜りて、
舌にまとわりからむ甘さに
テロリストの悲しみは無い
頭のみ重くなる
システムじみた社会では
心の悲しみ、悲しみを
我は知らない

 (2005.1-2)
 石川啄木のココアのひと匙を読み返して、テロリストの悲しみを問う。主義や利権ではなく人は動くはず。それらの問題よりも身近な所に悲しみはあふれていると思う。