海と空の境界で

空を見ることが増えていた
人は、何も無いと言うけれど
こんなにも満ちているではないか
眼下《がんか》には海が広がり
岸壁《がんぺき》に打ちつける
波しぶきが聞こえる
海に浮かぶ空は、まだら色で
うろうろしていた
何も無いところにたたずむ人はいない
その人にとってはそこに何かがあるのだ

鳥は集って町を回る
朝礼のようなトンボ達の群れ
空をゆく魚群《ぎょぐん》のように
私の上を過ぎてゆく
互いの距離《きょり》を離さぬように
いつかは一人飛びたてるようにと

山で囲まれた盆地に、生を受けた私と
私には遠い、鰺ヶ沢の海で
海鳥《うみどり》が鳴く
釣り人は、鋭《するど》く竿《さお》を放つ
人にはどう映るのだろう
何も無いという場所で
一人たたずむ私を

浜辺は揺れる
砂浜は削られ、冬が近づく
きれいな貝殻はなく、耳を寄せる物も無い
北国からか南国か
流木だけが、時の移《うつ》ろいを示す
空が広がっている、波の音が聞こえる
空はまだら色で、海は青白かった

私に見える空はこんなにも愛おしい
空よ
打ちつけろ私に 引き返せ海に
ゆさぶれ ゆさぶれ梢《こずえ》を
舞い上げろ海に

    (2004.10.1-2)
青森県鰺ヶ沢の海で、おだやかな夕方から、雨と風の朝に