荒地野菊

川で溺れた少女のことは
もう誰も口にはしなかつた

村の家の障子紙が白い
秋の日に
まるで 偶然のやうに美しい

少年が一人
哨兵《せうへい》のやうに道のべに立つてゐる

その午後から
火の山は退屈さうに煙をはき出した

少年は駈け出した
物影を見て駈け出した

野に光つてゐるもの
ひともと揺れてゐるもの

荒地野菊 荒地野菊

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