晩秋

私は柿の木が好きだ

それにもまして あの夕方の空が好きだ

何処かで風の吹いてゐるあのかはたれの空がこのましい

その空の下では 私の心は容易に子供になつて 空しい遊びをしてゐる

私は柿の木が好きだ

私は空しい想ひが あの堅い一つの実に疑たとしたら

人の心が哀しいので それで私の想ひをはぐくむとしたら

落日は ときどき赫《かつ》とあかるくなる

どのあたりも赫《かつ》とあかるくなる

好ましい娘の首筋を優しく一すぢに流れたやうに

私は急に恥しくなる

私は柿の木が好きだ

その空の上では 何処かで はるかな風が吹いてゐる

目次に戻る