2005-08-13 水ぎは 詩 津村信夫 ――セント・ルカ病院附近 暮れ残されるものは 頂きの小さな十字架だけだつた 祈つたり 黄色く燃えたりして 途方に暮れた窓々は みんな水ぎはに近くひらかれてゐた ひとつのことしか考へられない たとへば不幸な運命であつても 人々はたつた一つの事を いつまでも永く考へてゐた ――キリスト様のみ名によつて やがて 部屋の一つびとつは明るく燈《ひ》を輝やかし初めたが 暗くなつた水の上では 風はもう何の粧《よそほ》ひもしなかつた 目次に戻る