水ぎは

     ――セント・ルカ病院附近

暮れ残されるものは 頂きの小さな十字架だけだつた 祈つたり 黄色く燃えたりして

途方に暮れた窓々は みんな水ぎはに近くひらかれてゐた

ひとつのことしか考へられない たとへば不幸な運命であつても 人々はたつた一つの事を いつまでも永く考へてゐた

――キリスト様のみ名によつて

やがて 部屋の一つびとつは明るく燈《ひ》を輝やかし初めたが

暗くなつた水の上では
風はもう何の粧《よそほ》ひもしなかつた

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