夕暮が中学生たちの手からボールを奪つてしまふ頃 公園に 勤人風な男を見かけるであらう ありきたりな ここにも一人叉一人と見かけるであらう 寛《ゆる》やかな かはたれの この時刻とすれちがふあれらの帽子《シヤツポ》 あれらの足どりの どの一人の男にも 人の注意は久しくとどまらないだらうが

公園の片隅 熊のゐる檻の前にも 一つの帽子《シヤツポ》が見出される この怠惰な動物とゐる夕暮を 果たして何の倦怠《アンニユイ》と放心を わけあつてゐたのだ
「もし もし 君 もう時間外ですよ」

檻を離れて あの帽子《シヤツポ》も亦《また》 何処か 記憶の遠くへ去つて行つた

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