この頃の夜は虫が鳴かなくなつた
どうしたことだらう
人にも逢はず暮すうちに
我が家の庭に雑草ははびこつた。
精神の疲れが気づくたびに
私の身ぢかく青く雑草はそよいでゐる
その丈高い草の陰に
もう あの虫どもは鳴きやんでしまつたか
こんなに外《と》の面《も》は明るい夜に
あれらは生命を落して行つたのか
いら草の上に 白く冷やかに置くものは
まるで私には現在のやうにも思はれない
心の渇いた夜は
かうして 私は小さな杯を手にしてゐる
いつまでも もてあそんでゐる

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