2005-08-13 月 詩 津村信夫 この頃の夜は虫が鳴かなくなつた どうしたことだらう 人にも逢はず暮すうちに 我が家の庭に雑草ははびこつた。 精神の疲れが気づくたびに 私の身ぢかく青く雑草はそよいでゐる その丈高い草の陰に もう あの虫どもは鳴きやんでしまつたか こんなに外《と》の面《も》は明るい夜に あれらは生命を落して行つたのか いら草の上に 白く冷やかに置くものは まるで私には現在のやうにも思はれない 心の渇いた夜は かうして 私は小さな杯を手にしてゐる いつまでも もてあそんでゐる 目次に戻る