2005-08-13 春 詩 津村信夫 未だととのはない春景色の中も 歩いてゐるうちに うつすら私は汗を掻《か》いてゐた 垣根の隅に 美しい藪椿 その椿から ほんの五六歩 墓標がたつてゐて 人が それを読んでゐた 一面に 気ぜはしく 椿の花が落ちてゐた 風が吹いてゐて 空は真青 もう ずつと以前から 梢で 季節を予知してゐたらしい そんな姿勢の木があつた 「詩人! 戯《たはむ》れにお前を 詩人と呼んでおいてもよい」 私はさう呟《つぶや》いて 汗をぬぐつて 叉歩き出した 目次に戻る