聖女

好んで山袴を穿《は》いた
身を屈めて よく庭の草を刈つてゐた
あの小母さんが死んだのだ
私に 木の花の名前を教へて呉れた人だつた

私はその会葬に列して
初めて キリストの信者であつたことを知つた

小母さんの愛した賛美歌

それを教会少女の群れが合唱した
牧師が立つた
小母さんの徳が
一つびとつ数へあげられた
参列の婦人達は
その度に 欷歔《すすりな》いた
私はそれを夢のやうにきいたゐた

小さな骨は 黒い布に包まれて
その布の上に 十字架が輝いてゐた

私は会堂の明り窓の下を帰つていつた
好んで山袴を穿《は》いて
庭の草を刈つてゐた
人間の女の死が
ただ訳もなく哀しかつた

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