はるかなものに

白い繭を破つて
生れ出た蛾のやうに
俺には
子供の成長が
実に不思議に思はれる
美しいもの――
とも考へる

俺は林の中に居を朴《ぼく》した
俺が老いるのは
子供が育つことだ
それにはなんの不思議もない
風が来て
芙蓉の花が揺れる

俺は旅で少女と識した
古いことだ 昔のはなしだ
少女は俺の妻になつた

その妻が
今 柱のそばに立つてゐる
子を抱いて 少し口もとで笑つて

風が吹く
どのあたりから?
旅の空を はるかなものを
俺はもう忘れてしまつたのか

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