昼を愛する歌

子供たちの囁《ささや》き声のやうに
風が ひそやかに尾根の上をわたつてゐる

枯木の向ふに昼の月が見える
醒めてゐるこの一瞬間《ひととき》が 遠い夢に通つてゐるやうに……

空の蒼い この一枚の澄明《ちようめい》な絵
この絵にこそ 私は静心《しづごころ》を読まう

なべて 樹にあつたものは
土に 非情に還り
著しき ものの動きとてはない

だが 人心《ひとごころ》は
一つ びとつの人心の哀しみは
その哀しみさへも透明なまでに

昼は――
冬の小さな太陽は おのれ自らの姿を輝き出してゐる

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