子供の好きな少女に

たとへれば夏の作物を見るやうだ
子供の好きな少女は豊かで美しい
あどけなくてどこか生真面目で
さうして
活々《いきいき》とした目と優しい心を持つてゐる
ある夕べ稲光《いなひか》りがして
庭の薄が明るくそよいでゐた
室内も
ときに又昼間のやうに明るくなつた
子供が寝てゐたお臍《へそ》を出して
その傍《そば》を離れず
十五ばかりの娘が一人
恐怖《おそれ》で目をみはつたまま座つてゐた
少女の手はまるで無意識に
(ああそしてそれはいつと
 この世の美しい行為の一つに違ひない)
小さな子供の手を確《しつ》かり握つてゐた

目次に戻る