2005-08-13 牛のこと 詩 津村信夫 大きな建物のなかで 靴で踏まれたり 鼻拭《ふき》にされた紙きれは いつのまにか うづたかく積まれて その事を曳《ひ》いてかへるのが その従順な動物の役目だと 私はあとになつて聞かされた 丁度 中庭と同じだけの 大きさの青空が そこから うかがはれたが その空に いくつかの星屑がはめこまれて 夕暮 牛は静かに帰へつて行つた あるときは 私たちよりもおくれて 獣が臥《ふ》してゐた敷石が いつのまにか 冷えて行くままに 目次に戻る