椿

老人は一寸《ちよつと》腰をかがめて
片手でそつと椿の枝をつかむ
花瓣《くわべん》を鼻さきにあてがつて見る
眼鏡の奥に
ほのぼのとした表情が浮んでゐる
海の見える昼の庭
手離した枝が
一ときは 美しく
ぶるぶると揺れてゐるのに
老人は 又ひつそりと立ち去つてゆく
胸のポケツトから
ま新らしい粉悦《てふき》を
几帳面にのぞかせて

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