利根川だより*2

   野辺のゆきゝ

あしびきの山のあらゝぎ
たゞ一もと摘みてもて来て
我妹子がたもとに入れし
足引きのやまのあらゝぎ
いまもなほさやかに匂ふ
あなうれしいまだ我をば
      忘れたまはじ

   野の家

  袖子が家のやねの草
  そで子がやねの草の露
  ゆふべは宿る星ひとつ
  哀はれその星なつかしや

  空のゆふべになる毎に
  きよき姿を思ひかね
  うれしき星をまた見むと
  野みちを来れば野の末に

  うき世のわざぞすべもなき
  さしも恋しき野の家を
  雲のあなたに別れきて
  みやこの市を我が行けば

  漲るちりのひとまとめて
  むかしの星ぞ見ゆるなる
  星よみやこは楽しきか
  ゆふぐれきよきかの人も
  見えぬ都はたのしきか

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