2005-11-07 椰子の実 詩 島崎藤村 名も知らぬ遠き島より 流れ寄る椰子の実一つ 故郷《ふるさと》の岸を離れて 汝《なれ》はそも波に幾月《いくつき》 旧《もと》の樹は生《お》ひや茂れる 枝はなほ影をやなせる われもまた渚を枕 孤身《ひとりみ》の浮寝《うきね》の旅ぞ 実をとりて胸にあつれば 新《あらた》なり流離の憂《うれひ》 海の日の沈むを見れば 激《たぎ》り落つ異郷《いきやう》の涙 思ひやる八重《やへ》の汐々《しほじほ》 いづれの日にか国へ帰らん 目次に戻る