星の王子様

モミジバフウの実

不思議な木の実

内幸町付近の道を歩いていると、不思議な形をした木の実が落ちていました。壊さないように手に取って見ると、実はもうすっかり茶色くなってカラカラに乾いています。ウニの様に丸くてトゲトゲがあり、トゲの根本には種が入っていたのでしょう、隙間が空いて黒く虚ろになっています。秋の役目も終えて、鼻に近づけてみても何の匂いもありません。
この実は、モミジバフウという木の実です。北米から中南米原産の木ですが、秋の紅葉が美しいため、公園や街路樹などに植えられています。見分けるポイントはこのイガイガの実と、掌状に分裂した葉です。モミジに似た葉で5裂から7裂し、モミジよりは大振りの葉です。葉に細かいギザギザが並び、カエデ類と違って葉が枝に互い違いに付いています。
私はこの実の見た目が大変面白いので、会社に持って帰ることにしました。この実の柄の部分を持って眺めながら街を歩いていると、別にいけない事をしているわけではないのですが、何か人に気付かれてはいけないという不思議な気持ちになります。

この実はどう見える?

街の街路樹の木の実という誰も気に留めない物なのですが、かえってそれ故にそういう物を持って帰ろうとしているという事が、何か自分しか知らない重大な秘密を知ってしまったみたいに、誰にも気付かれてはいけないという気持ちを芽生えさせるのです。私はこの手にイガイガした不思議な物を持っている、そしてこの不自然な行動を誰かに気付かれてしまったら、私のもっているこの実はたちまち爆発してしまう、と
会社に持って帰ると、前と横の席の人が明からに怪しい行動を取っている私に気付き、笑い始めました。私はこの手の中に持っている爆弾を投げつけはしませんでしたが、正直に秘密を告白することにしました。
やはり二人ともこの実が何なのかわからないようです。宝石みたいでしょう、と爆弾を手渡しましたが、横の席の人は柄のほうを持って、この黒い隙間から何か得体の知れない物が掴み掛かってきそうと、つれない反応を示しました。
私は午後、鉢植えの土の上に置いたこのイガイガを時々持ち出しては、黒く裂けている隙間を見つめました。私にはこのイガイガが、この宇宙のどこかに落ちている星のように思えてきて、このイガが夕方になると光りだし、そしてこのデコボコした山を持つ星に、星の王子様が降りてくる、そう思いました。