ポロリ、ポロリと死んでいく

俺の全身《ごたい》よ、雨に濡れ 
富士の裾野に倒れたり      
               詠人不詳

ポロリ、ポロリと死んでゆく
みんな分れてしまふのだ。
呼んだつて、帰らない。
   なにしろ、此の世とあの世だから叶わない。

今夜《いま》にして、俺はやつとこ覚《さと》るのだ、
白々しい自分であつたと。
そしてもう、むらみやたらにやりきれぬ。
   (あの世からでも、俺から奪へるものでもあつたら奪つてくれ)

それにしてもが過ぐる日は、なんと浮はついてゐたことだ。
あますなきみぢめな気持である時も
随分いい気でゐたものだ。
   (おまへの訃報に遇ふまでを、浮かれてゐたとはどうもはや。)

風が吹く
あの世も風は吹いてるか?
熱にほてつたその頬に、風をうけ
正直無比な目で以《もつ》て、
おまへは私に話したがつてるのかも知しれない…

その夜、私は目を覚ます。
障子は破れ、風は吹き、
まるでこれでは戸外《そと》に寝てるも同様だ。