盲目の秋
Ⅰ
風が立ち、浪が騒ぎ、
無限の前に腕を振る。
その間《かん》、小さな紅《くれなゐ》の花が見えはするが、
それもやがては潰れてしまふ。
風が立ち、浪が騒ぎ、
無限のまへに腕を振る。
もう永遠に帰らないことを思つて
酷白《こくはく》な嘆息するのも幾たびであらう……
私の青春はもはや堅い血管となり、
その中を曼珠沙華《ひがんばな》と夕陽とがゆきすぎる。
それはしづかで、きらびやかで、なみなみと湛《たた》へ、
去りゆく女が最後にくれる笑《ゑま》ひのやうに、
厳《おごそ》かで、ゆたかで、それでゐて佗《わび》しく
異様で、温かで、きらめいて胸に残る……
あゝ、胸に残る……
風が立ち、浪が騒ぎ、
無限のまへに腕を振る。
Ⅱ
これがどうならうと、あれがどうならうと、
そんなことはどうでもいいのだ。
これがどういふことであらうと、それがどういふことであらうと、
そんなことはなほさらどうだつていいのだ。
人には自恃《じじ》があればよい!
その余はすべてなるまゝだ……
自恃だ、自恃だ、自恃だ、自恃だ、
ただそれだけが人の行ひを罪としない。
平気で、陽気で、藁束《わらたば》のやうにしむみりと、
朝霧を煮釜に填《つ》めて、跳起きられればよい!