水辺にて

   Ⅰ 水かげろふの歌

雲を見たまへ。
あはれ、心のかげひなたを
冬と春とのゆきずり、
それとしもなき鐘が鳴る。
鐘が鳴る。
鐘より淡きおもひ出の
昼なれば窓の硝子《がらす》の神経に射す
水かげろふの悲しさ?

   Ⅱ 比喩

ころころ柳、猫柳……
おちつかぬ冬の感覚。
SWANよ
私の「愛」の泥ふかく、
をんなの欲しがる「夜」がある
ころころ柳、猫柳。
赤い灯《ほ》かげの
私の性は水のにしきゑ。

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