強者の詩

人間の此上もなきかなしみは
此のくるしみの世界に生みいだされたことだと云ふか
否!
これこそ人間のよろこびではないか
此のうつくしさが解らないのか
何といふうつくしさであらう
此のくるしみの世界は
此のくるしみに生くることは
みよ
ひろびろとした此の秋の田畠を
重い穂首をたれた穀物
いさましいその刈り手
その穀束をはこび行く馬
ゆたかな天日の光をあびつつ
其処にも此処にも
落穂をひらふ貧しい農婦等
からすや雀も一しよであるのか
此のむつましさを知れ
此のうつくしさはどうだ
此の大きなうつくしさはどうだ
此のうつくしさを知るものは強い
此のくるしみの世界にのみ
人間の生きのよろこびはある
人間の生きのよろこびよ
強きものにのみ此の世界はうつくしいのだ
かくして峻厳な一日ははじまり
かくして人間の一日は終る
強くあれ

目次に戻る