二つの影

浪の音《ね》の
楽《がく》にふけ行く
荒磯辺《ありそべ》の夜《よる》の砂、
打ふみて我は辿りぬ。
海原にかたぶける
秋の夜の月は円《まろ》し。

ふと見れば、
ましろき砂に
影ありて際《きは》やかに、
わが足の歩みはこべば、
影も亦歩みつつ、
手あぐれば、手さへあげぬ。

とどまれば、
彼もとまりぬ。
見つむれど、言葉なく
ただ我に伴《とも》なひ来る。
目をあげて、空見れば、
そこにまた影ぞ一つ。

ああ二《ふた》つ、
影や何なる。
とする間《ま》に、空の影、
夢の如、消えぬ、流れぬ。
海原に月入りて、
地の影も見えずなりぬ。

我はまた
荒磯《ありそ》に一人。
ああ如何に、いづこへと
消えにしや、影の二つは。
そは知らず。ただここに。
消えぬ我、ひとり立つかな。

(甲辰十一月廿一日夜) 

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