うばらの冠

銀燭《ぎんしよく》まばゆく、葡萄の酒は薫《くん》じ、
玉装《ぎよくそう》花袖《くわしう》の人皆酔《ゑ》にけらし。
ふけ行く夜をも忘《ぼう》じて、盃《はい》をあぐる
こやこれ歓楽つきせぬ夏の宴《うたげ》。
人皆黄金のかがやく冠《かんむり》つけて、
天下《てんが》の富《とみ》をば、華栄《はえ》をばあつめぬるに、
ああ見よ、青磁《せいじ》の花瓶《はながめ》、百合の花の
萎《しを》れて火影《ほかげ》にうつむく、何の姿。

願《ねが》ふは大臣《おとゞ》よ、野に吹く清き花は
ただ野の茨《うばら》の葉蔭に捨てて置けよ。
野生《のおひ》の裸々《らゝ》なる美《うつく》し花の矜《ほこ》り、
そは君、この夜の宴《うたげ》にあづかるべく
あまりに貧《まづ》しく、小《ちひ》さし。許せ君よ、
清きにふさふはうばらの冠《かむり》のみぞ。

(甲辰十二月十日) 

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