群集の中を求めて歩く

私はいつも都会をもとめる
都会のにぎやかな群集の中に居ることをもとめる。
群集は大きな感情をもつたひとつの浪のやうなものだ
どこへでも流れてゆくひとつのさかんな意志と愛慾とのぐるうぷだ。
ああ ものがなしき春のたそがれどき
都会の入り混みたる建築と建築との日影をもとめ
大きな群集の中にもまれて行くのはどんなに楽しいことか
みよ この群集のながれてゆくありさまを
ひとつの浪はひとつの浪の上にかさなり
浪はかずかぎりなき日影をつくり 日影はゆるぎつつひろがりすすむ
人のひとりひとりにもつ愁ひと悲しみと みなそこの日影に消えてあとかたもない。
ああなんといふやすらかな心で 私はこの道をも歩いてゆくことか。
ああこの大いなる愛と無心のたのしき日影
たのしき浪の彼方につれられてゆく心もちは涙ぐましくなるやうだ。
うらがなしい春の日のたそがれどき
このひとびとの群は建築と建築との軒を泳いで
どこへどうして流れゆかうとするのか
私のかなしい憂愁をつつんでゐるひとつの大きな地上の日影
ただよふ無心の浪のながれ
ああどこまでもどこまでも この群集の浪の中をもまれて行きたい。

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