灰色の道

日暮れになつて散歩する道
ひとり私のうなだれて行く
あまりにさびしく灰色なる空の下によこたふ道
あはれこのごろの夢の中なるまづしき乙女
その乙女のすがたを恋する心にあゆむ
その乙女は薄黄色なる長き肩掛けを身にまとひて
肩などはほつそりとやつれて哀れにみえる
ああこのさびしく灰色なる空の下で
私たちの心はまづしく語り 草ばなの露にぬれておもたく寄りそふ。
恋びとよ
あの遠い空の雷鳴をあなたは聴くか
かしこの空にひるがへる波浪の響にも耳をかたむけたまふか。

恋びとよ
このうす暗い冬の日の道辺に立つて
私の手には菊のすえたる匂ひがする
わびしい病鬱のにほひがする。
ああげにたへがたくもみじめなる私の過去よ
ながいながい孤独の影よ
いまこの並木ある冬の日の街路をこえて
わたしは遠い白日の墓場をながめる
ゆうべの夢のほのかなる名残をかぎて
さびしいありあけの山の端をみる。
恋びとよ 恋びとよ。

恋びとよ
物言はぬ夢のなかなるまづしい乙女よ
いつもふたりでぴつたりとかたく寄りそひながら
おまへのふしぎな麝香のにほひを感じながら
さうして霧のふかい谷間の墓をたづねて行かうね。

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