2004-07-17から1日間の記事一覧

こころ

こころをばなににたとへん こころはあぢさゐの花 ももいろに咲く日はあれど うすむらさきの思ひ出ばかりはせんなくて。 こころはまた夕闇(ゆふやみ)の園生(そのふ)のふきあげ 音(おと)なき音(おと)のあゆむひびきに こころはひとつによりて悲しめど…

郵便局の窓口で

郵便局の窓口で 僕は故郷(こきやう)への手紙をかいた。 鴉(からす)のやうに零落(れいらく)して 靴も運命もすり切れちやつた 煤煙(ばいえん)は空に曇って けふもまだ職業は見つからない。 父上よ 何が人生について残つて居るのか。 僕はかなしい虚無…

海豹

わたしは遠い田舎の方から 海豹《あざらし》のやうに来たものです。 わたしの国では麦が実り 田畑がいちめんにつながつてゐる。 どこをほつつき歩いたところで 猫の子いつぴき居るのでない ひようひようといふ風にふかれて 野山で口笛を吹いている私だ。 な…