郵便局の窓口で

郵便局の窓口で
僕は故郷(こきやう)への手紙をかいた。
鴉(からす)のやうに零落(れいらく)して
靴も運命もすり切れちやつた
煤煙(ばいえん)は空に曇って
けふもまだ職業は見つからない。

父上よ
何が人生について残つて居るのか。
僕はかなしい虚無感から
貧しい財布の底をかぞへて見た。
すべての人生を銅貨にかへて
道路の敷石(しきいし)に叩(たた)きつけた。
故郷(こきやう)よ!
老(お)いたまへる父上よ。

僕は港の方へ行かう
空気のやうに蹌踉(さうらう)として
波止場(はとば)の憂鬱な道を行かう。
人生よ!
僕は出奔(しゆつぱん)する汽船の上で
笛の吠(ほ)えさけぶ響(ひびき)をきいた。