貧しき信徒
目次
- 母の瞳
- お月見
- 花がふつてくると思ふ
- 涙
- 秋
- 光
- 母をおもふ
- 風が鳴る
- こどもが病む
- ひびいてゆかう
- 美しくすてる
- 美しくみる
- 路
- かなかな
- 山吹
- ある日
- 憎しみ
- 夜
- 日が沈む
- 果物
- 壁
- 赤い寝衣
- 奇蹟
- 私
- 花
- 冬
- 不思議
- 人形
- 美しくあるく
- 悲しみ
- 草をむしる
- 童
- 雨の日
- 蟻
- 大山とんぼ
- 虫
- あさがほ
- 萩
- 西瓜を喰おう
- こうぢん虫
- 春
- 春
- 陽遊
- 春
- 梅
- 冬の夜
- 病気
- 太陽
- 石
- 春
- 春
- 春
- 桜
- 神の道
- 冬
- 冬日
- 森
- 夕焼
- 霜
- 冬
- 日をゆびさしたい
- 雨
- くろずんだ木
- 障子
- 桐の木
- ひかる人
- 木
- 踊
- お化け
- 素朴な琴
- 響
- 霧
- 故郷
- こども
- 豚
- 犬
- 柿の葉
- 涙
- 雲
- お銭
- 水や草は いい方方である
- 天
- 秋のひかり
- 月
- かなしみ
- ふるさとの川
- ふるさとの山
- 顔
- 夕焼
- 冬の夜
- 麗日
- 冬
- 冬の野
- 病床無題
- 無題
- 無題
- 無題
- 梅
- 雨
- 木枯
- 無題
- 無題
- 無題
無題
夢の中の自分の顔と言うものを始めて見た
発熱がいく日《にち》もつづいた夜
私はキリストを念じてねむつた
一つの顔があらわれた
それはもちろん
現在の私の顔でもなく
幼ない時の自分の顔でもなく
いつも心にゑがいてゐる
最も気高い天使の顔でもなかつた
それよりももつとすぐれた顔であつた
その顔が自分の顔であるといふことはおのづから分つた
顔のまわりは金色《きんいろ》をおびた暗黒であつた
翌朝眼がさめたとき
別段熱は下《さが》つてゐなかつた
しかし不思議に私の心は平らかだつた
ルビは《》で示した。
傍点は太字で示した。
横線はアンダーラインで示した。
旧字の一部は現代表記になおした。
底本:「八木重吉全集第二巻」筑摩書房(昭和57年)
初出:「貧しき信徒」野菊社(昭和3年)