2004-07-01 平原 詩 室生犀星 起きると紙にむかふ 紙は真白《ましろ》な平原になり 平原はけふもどこまでも続く いくら歩いても 行手《ゆくて》が見えて来ない どんな旅行でも これ以上永《なが》い旅はなからう 駱駝《らくだ》も 馬も 人さへ死にはてた平原に 吹きすさぶものは風ばかりだ みんなばらばらに歩く 歩いてゐるとばたばたやられる やられるものを振り返らない 見向きもしない うつちやつて行く 真白《ましろ》な平原に月もない 何《な》にも見えない さはるものは一つもない