2004-07-01 老いたるえびのうた 詩 室生犀星 けふはえびのやうに悲しい 角《つの》やらひげやら とげやら一杯生やしてゐるのが どれが悲しがってゐるのか判らない。 ひげにたづねて見れば おれではないといふ。 尖《とが》つたひげに聞いて見たら わしでもないといふ。 それでは一体誰が悲しがつてゐるのか 誰に聞いてみても さつぱり判らない。 生きてたたみを這《は》うてゐるえせえび一疋《いつぴき》。 からだぢゆうが悲しいのだ。